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東京地方裁判所 平成3年(ワ)3516号 判決

原告

石井よしみ

被告

磯部征男

主文

一  被告は、原告に対し、金五四万九〇三五円及びこれに対する昭和六三年八月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金六五七万一二八三円及びこれに対する昭和六三年八月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

二  被告

請求の棄却及び訴訟費用の原告の負担

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(1) 原告と被告との間で、次の交通事故が発生した。

事故の日時 昭和六三年八月三日午前九時一五分ころ

事故の場所 東京都練馬区土支田四丁目二七番九号先路上

加害者 被告(加害車両運転)

加害車両 普通乗用自動車(練馬五二と一六二)

被害者 原告

事故の態様 被告が被告宅から加害車両を後進して道路に出て、被告宅と隣接する原告宅の前まで加害車両を前進させたところ、折から掃除をしようと思つて金属製のゴミ入れ用の一八リツトル缶(以下「ゴミ缶」という。)を持つて原告宅から出てきた原告の左膝と同車の右側バンパーが接触した。このため、原告の身体が捩れてゴミ缶が加害車両の後部右側ドア付近にぶつかり、その後、原告は、転倒した。

仮に、原告の左膝と加害車両の右側バンパーの接触がなかつたとしても、加害車両が急に前進したため、原告がゴミ缶を振り回す形となり、このため、原告の左膝が損傷した。

事故の結果 原告は、左膝MCL損傷、腰部挫傷、右肩関節周囲炎の傷害を負つた。

(2) 原告は、北村整形外科医院に、昭和六三年八月三日から同年一一月二日まで入院し、翌三日から平成二年三月七日まで通院した。

(3) 原告は、平成二年三月七日の症状固定後も両項部痛、頭痛、左膝関節痛の後遺症を残した。

2  損害賠償請求の根拠

被告は、加害車両を所有し、これを運転していたところ、原告宅前における人の出入りに注意して運転すべき義務があるのに、これを怠つて漫然と前進したことにより前示の事故が発生したから、自賠法三条により原告に生じた後記損害を賠償すべき義務を負う。

3  本件事故による損害額

(1) 治療費関係 六一万三九四〇円

ただし、自賠責保険から填補済み。

(2) 休業損害 二八六万三八九四円

平成元年賃金センサス女子労働者学歴計年収二六五万三一〇〇円を基礎に三九四日分

(3) 慰謝料 三一一万円

入通院(入院三カ月、通院一五カ月)慰謝料二二一万円と後遺症慰謝料九〇万円の合計である。

(4) 弁護士費用 五九万七三八九円

よつて、原告は、被告に対し、右(2)から(4)までの合計損害金六五七万一二八三円及びこれに対する本件事故の日である昭和六三年八月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実のうち、被告が加害車両を所有し、原告主張の日時・場所において、これを運転したことは認めるが、その余は、いずれも否認する。

被告は、被告宅から加害車両を後進して道路に出、原告宅の前まで前進させたところ、原告が急に原告宅から飛び出し、右手で持つていたゴミ缶を故意に加害車両の後部右側扉にぶつつけた。従つて、仮に原告に左膝MCL損傷があつたとしても、右の故意行為の結果ゴミ入れの缶に振り回されて膝に傷害が生じたに過ぎないから、原告の自傷事故である。

また、仮に右事故後原告がその主張の傷病名で入通院したとしても、腰部の治療は原告の既往症の治療のためであり、右肩関節周囲炎も原告主張の事故後に発生した自損事故によるものであつて、いずれも右事故と相当因果関係がない。さらに、左膝MCL損傷については、原告の持病や肥満体も影響しており、その寄与度を考慮すべきである。

2  請求原因2は、争う。

3  請求原因3の事実のうち、原告が自賠責保険から六一万三九四〇円の填補を受けたことを認めるが、その余の事実は、いずれも否認する。特に、原告は入院期間中、外泊の日数が多く、入院の必要性を否認する。この点は、休業損害等の算定に当たつても考慮すべきである。

三  抗弁(仮定的)

仮に原告に何らかの責任があるとしても、原告は、その玄関に立つて加害車両が発進することを確認しながら、同車の進行方向に飛び出したものである。これに対し、被告は、真横に玄関から一段下りた原告を確認したものの原告が加害車両に衝突する状況ではなかつたことからその進行を継続したものであつて、これらを比較考量すると、八割程度の過失相殺を主張する。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実を否認する。原告は無過失である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生等

1  原告宅と被告宅が隣接していること、原告主張の日時、場所において、被告がその自宅から加害車両を後進して道路に出、原告宅の前まで前進させたこと、そのころ、原告がゴミ缶を持つて、原告宅から道路に進行したこと、ゴミ缶は加害車両の後部右側扉付近に当たつたことはいずれも当事者間に争いがない。

甲一、三、四、六、一七ないし二〇(枝番を含む。)、乙一、二の1、三の1、四、五、八ないし一、一(枝番を含む。)、原告本人、被告本人に右争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

(1)  原告宅と被告宅とは住宅街にある隣接している民家であり、その前には幅約五メートル(車線部分は約三メートル)の道路がある。

(2)  被告は、付近の下水工事のため、被告宅の車庫から加害車両を後進して道路に出た後、そのまま道路を後進し、空地でUターンして前進するのを通例としていたが、事故当日は、被告宅の車庫から加害車両を後進して道路に出た後、時速五キロメートル程度で原告宅の前まで前進させた。そのころ、原告は、ゴミ缶(円筒形の一八リツトル缶で高さが四〇センチメートル程度あるもの)を右手で持つて、原告宅から道路に出ようとしていたが、被告は、右原告の行動を認識していた。原告も、加害車両が車庫から出てきたことを認識していたが、いつものように反対方向に向かうものと思い、道路に進行したため、原告の身体は、加害車両の進行に関連して、ゴミ缶の重みもあつて右に捩れて倒れそうになつた。なお、ゴミ缶は、原告が姿勢を戻す時に加害車両の後部右側扉付近に当たつた(以下、この加害車両の進行に関連して原告の身体が右に捩れたことを「本件事故」という。)。

(3)  被告の妻は、被告宅の車庫の扉を閉めるため付近にいたが、原告が故意にゴミ缶をぶつつけたとして、原告との間で口論を始めた。原告は、そのうちに原告宅付近でうずくまり、痛い、痛いと言い始めた。このため、被告は、捻挫の可能性があるとして、原告に対し病院まで連れていくから車に乗るように勧めたが、原告は、これを断り、自宅にみずから歩行して入り、夫に電話した後に警察にも連絡した。

(4)  原告は、本件事故後、北村整形外科医院で診断を受け、左膝MCL損傷、腰部挫傷の傷病名で入院したが、事故当日は、原告の左膝には打撲傷や擦過傷の所見はなかつた。同病院での入院期間中に、原告は、左変形性足関節炎、右肩関節周囲炎、右変形性足関節炎の傷病についても治療を受けたが、本件事故と因果関係のあると考えられる傷病は、左膝MCL損傷、腰部挫傷に限られる。なお、左膝MCL損傷とは、左膝の内側々副靱帯損傷のことであり、左膝の外側から内側向きに外力を受けた時又は左膝の下部(すねやつま先)が外に回るか若しくは大腿・ももが内側に回るような膝外旋強制を受けた時に起こり得る損傷である。また、腰部挫傷は、原告の身体が右に捩れたことによるものであると考えられる。

(5)  被告は、事故後行われた実況見分において、加害車両の右側後方が衝突箇所であると説明している。なお、看護記録には、原告が乗用車と接触して転倒し、左膝を打つたと記載されている。

(6)  本件事故当時、原告と被告との間には、原告宅の増改築工事を巡つて紛争があり、被告が原告を相手に建築工事禁止の仮処分申請をしていて、その審尋が行われていた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  原告は、主位的に、ゴミ缶を持つて原告宅から出てきた原告の左膝と加害車両の右側バンパーが接触したと主張する。そして、原告は、本人尋問において、右接触の結果その身体が右に捩れて倒れそうになつたと供述し、甲二(原告代理人作成の事故発生状況報告書)には、これに沿う記載がある。しかしながら、〈1〉甲一七、一八の1ないし4、乙六、一二によれば、原告は身長一三五センチメートルであつて、膝の高さは三二センチメートル程度であるのに比し、加害車両のバンパーの高さは最下部で四〇センチメートル、最高部で五二センチメートルあることが認められ、その高さの相違を考慮すると、原告主張の接触があつたとするのは不自然であること、〈2〉本件事故後の状況が、前示のとおり、被告の妻が原告に口論を始めたり、被告が実況見分において加害車両の右側後方が衝突箇所であると説明しているなど、接触を窺わせるものではないこと、〈3〉原告は、北村整形外科医院の看護婦に対し、乗用車と接触して転倒したと述べており(この点、原告は本人尋問においてそのようなことを述べたことはないと供述するが、前示のとおり看護記録に記載があり、右供述は採用しない。)、本件事故を大袈裟に扱う傾向が窺われること、〈4〉本件事故と因果関係のある考えられる原告の傷病は、左膝MCL損傷、腰部挫傷であるところ、いずれも、身体の捩れによつても起こり得るものであり、事故当日において原告の左膝には打撲傷や擦過傷の所見はなかつたことも考慮すると、事故後の原告の傷害の内容から接触の事実を認めることが困難であること、以上の諸点によれば、右各証拠は採用することができず、他に右主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  他方、被告は、原告が原告宅から飛び出し、右手で持つていたゴミ缶を故意に加害車両の後部右側扉にぶつつけたと主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。なるほど、本件事故当時、被告は原告を相手に建築禁止の仮処分の申請をしており、原告が被告に対して良い感情を抱いていなかつたことは想像に難くはないが、そうだからといつて原告が被告主張の行動に出ることまで認めることはできない。また、被告の妻は、本件事故後、原告が故意にゴミ缶をぶつつけたとして被告と口論しているが、原告は右に捩れて倒れそうになつた姿勢を戻す時にゴミ缶を加害車両の後部右扉付近に当てたのであつて、この行為は外形上故意行為とも見れなくはないのであり、右事実は、被告主張の事実を裏付けるものではない。

4  そこで、本件事故の態様を検討すると、前認定の事実によれば、原告は、加害車両が後進し続ける前提の下で原告宅から道路へ進行したが、右意図とは裏腹に加害車両が前進したのであつて、このため、原告は、前進を制止し、かつ、右手でゴミ缶を持つていたことから、これを右に振り回す形となり、その身体が右に捩れたことにより、原告の左膝等が損傷したと認めるのが相当である。そして、ゴミ缶による加害車両の損傷部位に照らせば、原告が前進を制止したときは、加害車両は、原告の手前を運転席程度まで進行していたものと認めるのが相当である。

5  右によれば、加害車両と原告の身体との接触の事実はないとはいえ、被告は加害車両の運行によつて原告の左膝等を損傷させたものというべきである。そして、本件事故のあつたところは、住宅街であり、道路幅も狭いのであつて、原告が原告宅から道路に進行してくるのを認識していた被告としては、原告の動静を注意深く見守つて加害車両を運転すべきところ、その義務を尽くしたということができないから、原告は、自賠法第三条により、右原告の傷害によつて生じた損害を賠償する義務があるといわなければならない。

二  原告の傷害及び後遺症

1  原告は、本件事故の結果、左膝MCL損傷、腰部挫傷、右肩関節周囲炎の傷害を負い、平成二年三月七日の症状固定後も両項部痛、頭痛、左関節痛の後遺症を残したと主張するので、検討すると、甲三、四、七の1ないし3、一七、乙三の2、四、七、一〇の1、2、一一の1ないし3、原告本人に前認定の事実を総合すると、

(1)  原告は、事故当日の昭和六三年八月三日に北村整形外科医院で診断を受け、同日から左膝MCL損傷、腰部挫傷の傷病名で入院した。左膝については鏡視下手術を行つた後、同月九日に左膝をギブス固定したが、同月二九日にはこれを切割し、それ以降は、理学療法や歩行訓練が行われた。原告は、膝関節の屈曲が良好となつたことから主治医の判断により同年一一月二日に退院し、同月四日から症状が固定した平成二年三月七日まで同病院に通院し(実質通院日数三〇一日)、機能訓練を受けた。なお、原告は、右入院期間中においても、ギブス固定時の八月二〇日や二七日に外泊したのをはじめ、相当日数外泊しており、特に一〇月に入ると不在や外泊の日が多くなつている。

(2)  原告は、北村整形外科医院において入院中の昭和六三年九月二一日からは左変形性足関節炎の傷病についても治療を受け、また、通院中の同年一一月二六日からは右肩関節周囲炎の、平成元年三月一日からは右変形性足関節炎の各傷病についても治療を受けたが、これらの傷病は、いずれも本件事故と因果関係はない。

(3)  原告は、平成二年三月七日に症状が固定したが、同月一二日の診断によれば、自覚症状として両項部痛、頭痛、左関節痛があるもののX線撮影上特記すべき所見はない。

(4)  原告は、肥満体質であり、本件事故前にも腰痛があつて医者の診療を受けたことがある。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実によれば、少なくとも事故当日から昭和六三年九月二〇日までの左膝MCL損傷、腰部挫傷についての入院治療は、本件事故と相当因果関係があるというべきである。翌二一日以降においては本件事故とは無関係の左変形性足関節炎の治療も行つていることから、右期間の入院治療のうち七割に当たるものが本件事故と相当因果関係のあるものと認める。なお、原告は入院期間中において相当日数外泊しているが、主治医が同年一一月二日までの入院を必要なものと判断しているのであつて、入院治療自体は必要なものと認め、外泊の点は慰謝料の斟酌事由とすることとする。

被告は、腰部挫傷については、原告が腰痛の既往症があることを考慮すべきであると主張するが、入院治療は左膝MCL損傷のために必要であることから、入院期間中の治療費等の関係では、この点を考慮しないこととする。また、被告は原告の肥満体質が左膝MCL損傷に影響を与えていると主張するが、右影響の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  同月四日以降の通院治療については、本件事故と因果関係があるものと認められるが、本件事故とは無関係の傷病の治療も行つており、また、原告には事故前から腰痛の気があつたことも斟酌して、通院治療のうち四割に当たるものが本件事故と相当因果関係のあるものとして認める。

4  原告は、後遺障害があると主張し、なるほど、症状固定後の平成二年三月一二日の診断では、両項部痛、頭痛、左関節痛の自覚症状を訴えているが、両項部痛及び頭痛本件事故による傷害の部位ではない箇所の痛みであり、また、左関節痛についてもX線撮影上特記すべき所見はなく、後遺障害を認めることができない。

三  本件事故による損害額

1  治療費関係 六一万三九四〇円

前示の基準に基づき本件事故と相当因果関係のある治療費を検討すると、乙二の2、三の1、3によれば、昭和六三年八月三日から同月二三日までの入院治療費は四三万一八三〇円であること、及び翌二三日から同年一一月二日までの入院治療費は二一万二三〇〇円であることが認められる。このうち八月二三日から九月二〇日までに要した入院治療費を知る証拠はないが、右二一万二三〇〇円を日数により按分すると、右期間の入院治療費は八万二五六一円、九月二一日から一一月二日までの入院治療費は一二万九七三九円であることが推認される。右一二万九七三九円の七割は、九万〇八一七円である。次に、甲八の1ないし8、九の1ないし6によれば、前示通院期間中に要した治療費、薬代の合計は二〇万六八三〇円であることが認められ、その四割は、八万二七三二円である。そして、四三万一八三〇円、八万二五六一円、九万〇八一七円及び八万二七三二円の合計額は六八万七九四〇円であり、原告が治療費関係として主張する六一万三九四〇円を超えることは明らかである。

2  休業損害 九六万八四九七円

弁論の全趣旨によれば原告は専業主婦であることが認められ、事故のあつた昭和六三年の賃金センサス女子労働者学歴計の年収二五三万七七〇〇円を基礎に休業損害を算定するのが相当である。そして、前示のとおり、原告は、昭和六三年八月三日から同年一一月二日まで入院治療したが、九月二一日から一一月二日まではその七割の日数をもつて本件事故と相当因果関係のある入院日数であること、原告は、同年一一月四日以降症状が固定した平成二年三月七日まで通算三〇一日通院したが、その四割の日数をもつて本件事故と相当因果関係のある通院日数であること、原告が専業主婦であつて、通院日一日につき半日分の休業損害を認めるが相当であることから、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、金九六万八四九七円と認める

計算 2,537,700×(49+43×0.7+301×0.4×0.5)÷365=968,497

3  逸失利益 なし

前示のとおり原告には本件事故による後遺障害は認められないから、逸失利益も認められない。

4  慰謝料 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある入院及び通院の日数、入院期間中における外出の事実、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、入通院慰謝料として金一二〇万円が相当である。なお、後遺症慰謝料は認められない。

5  右認定にかかる損害の合計金額は、二七八万二四三七円である。

四  過失相殺

前認定の事実によれば、原告は同人宅から道路に出る際に加害車両が被告宅の車庫から出てきたことを認識しており、また、加害車両は相当程度前進していたのであつて、加害車両が普段のように後進を続けるものと思いこんで道路に進行したとはいえ、原告が相当大きなゴミ缶を持ち、迅速な行動に制限が加わることを参酌すれば、右道路への進行は極めて危険な行為であると評価し得るものであり、原告の右行動も本件事故の原因となつていることは明らかである。そして、被告に自賠法三条の責任が否定できないものの、加害車両は相当程度進行していたのであつて、被告において加害車両が通り過ぎるまで原告が道路への進行を留保すると期待するのももつともであり、歩行者対車両の事故であることを考慮したとしても、損害賠償の額を算定するに当たつては、原告の右過失を斟酌して六割を減額するのが相当である。

右過失相殺後の原告の損害額は、一一一万二九七五円である。

五  損害の填補

原告が自賠責保険から六一万三九四〇円の填補を受けたことは当事者に争いがない。右填補後の原告の損害額は、四九万九〇三五円である。

六  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、金五万円をもつて相当と認める。

七  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告に対し、金五四万九〇三五円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年八月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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